10年前のデスバレーと暑くならない夏と
今年の夏はいつもより暑くならず、ダラダラと雨が降り続いている。
夏はやはり、かーーっと暑くなって欲しい。照り付ける太陽に苛つきながら、滴る汗が地面に吸い込まれる様を眺めていたい。
そんなことを考えていて、十年前にデスバレー国立公園を訪れた時のことを思い出していた。
■死の谷の底で焼く卵は美味いか?
デスバレー国立公園はアメリカ合衆国カリフォルニア州にある。最寄りの都市はラスベガスで、車で2-3時間くらいの距離だ。
ここは全米で最も暑く、乾燥した国立公園であり、夏場には気温が軽く40度を超える。かつて56.7度という世界最高気温を記録したこともある。
あまりに暑く、ほとんど雨が降らないため、草木が茂ることもない。ただただ荒涼とした岩と砂漠が広がる、まさに「死の谷」と呼ぶに相応しい土地なのだ。
以前、「デスバレーの日差しで目玉焼きが焼けるか?」というお馬鹿な実験を試みた動画が話題を呼んだ。
アメリカ人はホントに阿保なことを考えるな、さすがに焼けるわけないじゃん、と思ったものだが、結果は予想を覆した。
目玉焼きは焼けた。焼けたどころではない、デスバレーで目玉焼きを焼くのが大流行したのだ。
と、いうわけで灼熱のデスバレー国立公園の観光シーズンは冬であり、真夏に訪れることは勧められない。
僕が訪れたのは確か10月の初めだったと思うが、とにかく想像を絶する暑さだった。
そして何より、人がいない。生き物の気配がしないのだ。
公園のエントランスは、荒涼とした砂漠の中にポツンと置かれた無人の料金支払い所があるのみだ。
僕はレンタカーで訪れたのだが、こんな場所で車のエンジントラブルでも起こした日には、生命の危機に関わるだろう。
実際、公園内の路上にはラジエーターに給水するためのタンクが幾つも置かれていた。灼熱の死の谷の底で、オーバーヒートを起こして死にかけた人がたくさんいたのだろう。
この時に見た様々な経験を活かして、僕は数年後に「クイックドロウ」という小説を書き上げることになる。
何と言うことだろう……これではまるで本の宣伝ではないか!
■死の谷に寄り添うゴーストタウン、ライオライト
ちなみにだが、デスバレー国立公園のすぐそばには、ライオライトという町がある。
町、といってもすでに廃墟となったゴーストタウンだが。
だけどなかなか趣きのある場所なので、最近増えてきている廃墟マニアの方であれば気に入っていただけるのではなかろうか。
ゴーストタウンなのだが、一応観光資源として機能していて、ビジターセンターがあった。……少なくとも10年前には。
ちなみにこの場所も、拙著「クイックドロウ」の中に登場する。
主人公のモンドとブッチが、容赦ない銃弾の雨の中を駆け抜け、そしてようやく最初の斬撃が振るわれるシーンだ。
……ああ、これではまるで本の宣伝ではないか!
ちなみにデスバレー国立公園の名誉のために言っておくと、園内にはちゃんとビジターセンターもゼネラルストアも宿泊施設(ホテルとキャンプサイト)も存在する。
僕も担いでいった一人用のテントで一泊したものだ。
日が落ちると辺りは涼しくなり、人も木々も虫もいないせいで、極限まで静かな夜になった。
夜中のだいぶ深い時間、テント脇でコヨーテか何かがガサゴソと音を立てるのに驚かされたけど、静謐で良い夜だった。