金を受け取らないコンビニと渋谷道玄坂上の朝
294円。
確かにレシートにはそう書いてある。だけどレジのおじちゃんは
「280円でいいからね!」
ちょっと怒った風にそう言う。
アメ横で板チョコを買っているのではない。れっきとした都心のコンビニでの出来事である。
お店に迷惑がかかるかも知れないから、詳細についてはボヤかすことにする。
渋谷のどっかにあるそのコンビニに朝立ち寄ると、おそらくオーナーであろう白髪のおじさんが斬新な接客をしてくれる。
「袋、いいです」「黙れ!俺は袋に入れる!」
コンビニでブラックサンダーやスニッカーズを一個だけ購入すると、不毛なマニュアルトークが発生すると思う。
すなわち
「袋、入れますか?(いらないよね?)」
みたいなコミュニケーション。
持ち重りのする品物でなければわざわざビニール袋に入れる必要は無い。
だけど無言で商品を裸のまま渡すのも失礼な感じだから、念のため聞くのだ。ミスタードーナツでドーナツを20個買った時にも同じ現象が起きる。
「お持ち帰りですか?(そらそうだろうけど)」
みたいな確認。
だけど、このコンビニは違った。おじさんは袋の有無を聞きはしない。僕が買った一枚のマカダミアナッツ入りチョコチップクッキーをちっちゃい袋に入れようとする。袋の口が滑ってうまく開かず、おじさんは袋を一生懸命カシャカシャとこすっている。
僕は袋なんか要らない。クッキーはバッグに放り込んでいけばいいのだから。
僕「あ……袋、いいですよ」
おじさん「そんなわけにはいかんやろ!」
一歩も引かず、おじさんは袋をカシャカシャこすり続ける。レジには会計待ちの列ができている。
「280円でいいからね!」
会計は294円だった。レジの液晶画面にそう表示されている。一杯のコーヒーとクッキーが一枚。僕は500円玉一枚と、一円玉4枚を財布から取り出そうとした。するとおじさんは
「280円でいいからね!」
と少し怒ったような口調で言い放った。
子供のころ、駄菓子屋でお菓子を買うとたまにオマケをしてくれたものだ。だが、その頃を思い出して心温まったりはしない。このままではレジの出納が合わなくなってしまうからだ。本部の人からこっぴどく怒られるのではないか?それとも実はこのおじさんがコンビニチェーンの総帥だったりするのか??
だが言い争っても仕方がない。僕は黙って500円玉を渡す 。
お釣りとして240円が返ってきた。
もはや突っ込む気力も無かったので、そのまま受け取っておいた。
立ち去ろうとする僕に向かって、おじさんはニッコリと微笑んだ。
「いつも来てくれて、ありがとね!また来てね!」
初めて立ち寄ったコンビニだった。