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風とビスコッティ

第3回ゴールデンエレファント賞受賞「クイックドロウ」作者です。ある日ブログのタイトルを思いついたので、始めることにしました。できれば世の役に立つ内容を書き記していきたいと思っています。

ネッシーの実在問題とネッシーランド ~イギリス・スコットランド旅行~

 英国のミステリースポットを巡る旅。避けて通れないのはスコットランドネス湖に住むという世界一有名なUMA、ネッシー

ロンドンの外科医が撮影したという有名な目撃写真は、捏造だということが本人の死の間際の告白によって明かされてしまったが、そんなことは関係ない。

2014年の夏。誰にも頼まれていない不思議発見の旅に私は行ってきた。

 

 

ロンドンからエジンバラ、そしてインバネス

 ネス湖スコットランドの北西部にあり、ロンドンからのアクセスは少し不便だ。

最寄の町はインバネス(Inverness)。ちなみにインバとはスコットランド語で河口を意味するのでインバネスとは“ネス(河)の河口”という意味になる。その名の通り、細長いネス湖からの支流が中心を流れる美しい町だ。

 

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 今回はロンドンからスコットランドの首都エジンバラに飛行機で飛び、そこからレンタカーでインバネスを目指した。

 

一泊二日の予定だったので、一番安いコンパクトカーを予約する。

(※今回の旅行では二度レンタカーを借りたが、rentalcars.comが便利だった)

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エジンバラ空港のHertsのカウンターへ行くと、係員から熱心に車種のアップグレードを進められる。デカい車の方が快適だぞ、今ならお得な価格でアップグレードできるぞと。だが私は申し訳なさそうに首を横に振る。

「その・・・・・・小さな車が好きなんだ。小回りが利くし、狭い道も安心だからね」

まぁ、本音はタイヤが四つ付いてればなんでもよかった。安く上がる車が欲しいだけなので。

無念そうにする係員からキーを受け取り、私は駐車場に向かう。

 

 

 

指定された場所で私を待っていたのは、メルセデスだった。

 

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何かの間違いだろうかと、カウンターに戻って係員に確かめる。

「今はコンパクトカーが出払ってて、それしかないんだ」

そう言って係員は肩をすくめた。

 

「……そう。あ、そう。だったら仕方ないね」

私はもう、小回りがどうとかは口にしなかった。まっすぐ駐車場に戻ってメルセデスに乗り込み、係員の気が変わらないうちにエジンバラを後にした。

 

 

ネス湖をどう観光するか。それが問題だ。

ネス湖へはインバネスから南西に車で30分ほどだ。ただし全長で20㎞近くあるネス湖のどの部分を目指すかによって、距離はだいぶ違う。

 

 

 

大抵の観光客は、湖の北部にあるアーカート城を目指す。

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アーカート城公式サイト(英文)

Historic Scotland - Urquhart Castle Property Overview

 

ここはネス湖観光の中心地だ。

すでに城としての面影はない城跡だが、立派なビジターセンターがあり、カフェや土産物を扱う売店もある。

歴史的な城跡としても見所が多いし、ネッシーの目撃談が多いスポットでもある。

 

 

アーカート城から少し離れた道路沿いには、ネス湖エキシビジョンセンターがある。

 

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Historic Scotland - Urquhart Castle Property Overview

  

ここにはネッシーの実在に迫ったアトラクションがある。小部屋で順番に上映されるフィルムを歩いて観て回るシンプルなものだが、なかなか興味深い。

ネッシー実在の可能性について科学的に向き合い、掘り下げる内容となっていて、単純なネッシー万歳フィルムではない。

例えば、以下のような 否定的な意見も取り上げている。

 

ネッシーが鎌首をもたげている目撃写真があるが、もしも首長竜の一種であれば骨格の構造上、あのような首の持ち上げ方はできない

ネス湖に生息するプランクトンや魚類の総量から計算すると、ネッシーのような巨大生物を何匹も養う食料にはなりえない

ネス湖の水温は冷たく、でっかい爬虫類は生息できない

 

……こう書くと、もはや“存在しない”でファイナルアンサーなんじゃないかという気もするが、 一般的に“不存在の証明”というのはとても難しいので、何か希望を残して終わってる感じがする。

 ちなみにアトラクションは全編英語。予め入口で配っている各国対応のフライヤー(要約が書いてある)をもらっておくべし。 

(※日本語版の音声ガイドがあるかも)

 

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※アトラクションの後には定番の土産物コーナー。ぬいぐるみだらけ。

 

 恐るべきネッシーランド

ネス湖エキシビジョンセンターから数十メートルほど離れた場所にある、売店に併設された施設。ネス湖エキビジョンセンターが、真摯な態度でネッシーの実存に迫った施設だとしたら、こちらはどっかのおっさんが悪ふざけで作ったとしか思えないテーマパークだ。

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たくさんの観光客で溢れかえっていた他のスポットとは違い、ここには人っ子ひとりいない。エントランスから入ると、誰もいない売店が出迎えてくれる。奥にはカーテンで目隠しされたガラス戸がある。

 

この奥がネッシーランドに違いない。

 

だが、どこで入場料を支払い、どうやって入場するのかは謎に包まれている。

 

わたしはしばらく売店の中をうろついてみた。客はもちろんのこと、店員さえいないのだ。ネッシーのぬいぐるみやTシャツ、カレンダーなど、なぜかまったくネス湖エキシビジョンセンターと同じような土産物を眺めながら、人の姿を探す。売店は意外に広い。

 

やがて、どこかで水を流すような音が聞こえ、奥からトイレをすませたおっさんが姿を現した。

私はその人物に近寄ると、聞きたかった謎について口にした。

「あの……すいません。ネッシーランドというのは……」

するとその初老の男性は目を輝かせ、溌剌とした表情で私の言葉をさえぎった。

「興味があるのかい!?」

「あ、いえ、どのような施設なのかと思い……」

「たったの六ポンドでネッシーに関する科学的な示唆に溢れ、歴史的に価値のある展示を見ることができる。さらに、奥では映画が上映されている。世界でたったひとつ、ここでしか見ることの出来ないオリジナルのフィルムだ。これは本当に価値がある映画だから、ぜひ見て行って欲しい。たったの六ポンドだ」

熱弁をふるうおっさんに圧倒され、気がつくと私は六ポンドを支払っていた。まぁいいだろう。何と言っても世界でたったひとつ、ここでしか見ることの出来ないオリジナルのフィルムだというのだから。

 

おっさんに促され、ガラスの扉を開く。

「中は通路になっている。右側の道を壁伝いに歩いてグルリと部屋を周回するんだ。最後の部屋が映画館になっている」

 

言われるがままにネッシーランドへ足を踏み入れる。

 

 

目の虚ろなネッシーたちが私を出迎える。

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館内はウォークスルー形式の展示場になっており、手作り感のある装飾の通路を、壁面に掲出されたパネルを読みながら歩く。照明は薄暗く、ちょっと変なにおいがする。順路は有るのか無いのか、良く分からない。

 

そして、私以外には客がいないため異様に静かだ。

 

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薄暗い館内を歩いていると、子供の頃に訪れた岡山の遊園地のお化け屋敷を思い出した。上から何かが降ってきたり、壁から噴出してくるような“雰囲気”があるのだが、実際には何も起こらない。

身構えて歩いていると肩が凝る。雰囲気はさながらお化け屋敷だが、実際は博物館なので、リラックスして見学すると良い。

 

 

そして施設の奥には確かに映画館があった。

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観客はもちろん私だけだ。

誰も居ない施設の奥で、ひとりで映画鑑賞をするという、想像以上に薄気味悪い体験だった。

 

さて肝心の中身だが、おっさんが世界でここだけ、と強調していた映画は、ネッシーを見たと主張する地元の人たちのインタビューをつなげて作ったものだった。

明らかにホームビデオで撮られており、時々、画面の端に消し忘れの日付が入ったりする。

インタビュー映像ばかりで画的にバリエーションが無いせいか、頻繁にネス湖の湖面がアップでインサートされる。ゆらゆら揺れる水面を見すぎると、途中で気持ち悪くなるので気をつけよう。

 

 

私は五分で切り上げた。

 

 

映画館を出て、出口へと向かう。とびきり狭い通路を歩いていた私の背後から、

「プシュッ」

と音がして、何かが吹き付けてきた。

 

思わず声を上げて飛び上がる。

モーションセンサー付きの芳香剤が、変なにおいを噴出したのだった。

 

意図せずして、この施設の中でもっともエキサイティングな瞬間だった。