ネッシーの実在問題とネッシーランド ~イギリス・スコットランド旅行~
英国のミステリースポットを巡る旅。避けて通れないのはスコットランドはネス湖に住むという世界一有名なUMA、ネッシー。
ロンドンの外科医が撮影したという有名な目撃写真は、捏造だということが本人の死の間際の告白によって明かされてしまったが、そんなことは関係ない。
2014年の夏。誰にも頼まれていない不思議発見の旅に私は行ってきた。
ロンドンからエジンバラ、そしてインバネスへ
ネス湖はスコットランドの北西部にあり、ロンドンからのアクセスは少し不便だ。
最寄の町はインバネス(Inverness)。ちなみにインバとはスコットランド語で河口を意味するのでインバネスとは“ネス(河)の河口”という意味になる。その名の通り、細長いネス湖からの支流が中心を流れる美しい町だ。
今回はロンドンからスコットランドの首都エジンバラに飛行機で飛び、そこからレンタカーでインバネスを目指した。
一泊二日の予定だったので、一番安いコンパクトカーを予約する。
(※今回の旅行では二度レンタカーを借りたが、rentalcars.comが便利だった)
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エジンバラ空港のHertsのカウンターへ行くと、係員から熱心に車種のアップグレードを進められる。デカい車の方が快適だぞ、今ならお得な価格でアップグレードできるぞと。だが私は申し訳なさそうに首を横に振る。
「その・・・・・・小さな車が好きなんだ。小回りが利くし、狭い道も安心だからね」
まぁ、本音はタイヤが四つ付いてればなんでもよかった。安く上がる車が欲しいだけなので。
無念そうにする係員からキーを受け取り、私は駐車場に向かう。
指定された場所で私を待っていたのは、メルセデスだった。
何かの間違いだろうかと、カウンターに戻って係員に確かめる。
「今はコンパクトカーが出払ってて、それしかないんだ」
そう言って係員は肩をすくめた。
「……そう。あ、そう。だったら仕方ないね」
私はもう、小回りがどうとかは口にしなかった。まっすぐ駐車場に戻ってメルセデスに乗り込み、係員の気が変わらないうちにエジンバラを後にした。
ネス湖をどう観光するか。それが問題だ。
ネス湖へはインバネスから南西に車で30分ほどだ。ただし全長で20㎞近くあるネス湖のどの部分を目指すかによって、距離はだいぶ違う。
大抵の観光客は、湖の北部にあるアーカート城を目指す。
アーカート城公式サイト(英文)
Historic Scotland - Urquhart Castle Property Overview
ここはネス湖観光の中心地だ。
すでに城としての面影はない城跡だが、立派なビジターセンターがあり、カフェや土産物を扱う売店もある。
歴史的な城跡としても見所が多いし、ネッシーの目撃談が多いスポットでもある。
アーカート城から少し離れた道路沿いには、ネス湖エキシビジョンセンターがある。
Historic Scotland - Urquhart Castle Property Overview
ここにはネッシーの実在に迫ったアトラクションがある。小部屋で順番に上映されるフィルムを歩いて観て回るシンプルなものだが、なかなか興味深い。
ネッシー実在の可能性について科学的に向き合い、掘り下げる内容となっていて、単純なネッシー万歳フィルムではない。
例えば、以下のような 否定的な意見も取り上げている。
・ネッシーが鎌首をもたげている目撃写真があるが、もしも首長竜の一種であれば骨格の構造上、あのような首の持ち上げ方はできない
・ネス湖に生息するプランクトンや魚類の総量から計算すると、ネッシーのような巨大生物を何匹も養う食料にはなりえない
・ネス湖の水温は冷たく、でっかい爬虫類は生息できない
……こう書くと、もはや“存在しない”でファイナルアンサーなんじゃないかという気もするが、 一般的に“不存在の証明”というのはとても難しいので、何か希望を残して終わってる感じがする。
ちなみにアトラクションは全編英語。予め入口で配っている各国対応のフライヤー(要約が書いてある)をもらっておくべし。
(※日本語版の音声ガイドがあるかも)
※アトラクションの後には定番の土産物コーナー。ぬいぐるみだらけ。
恐るべきネッシーランド
ネス湖エキシビジョンセンターから数十メートルほど離れた場所にある、売店に併設された施設。ネス湖エキビジョンセンターが、真摯な態度でネッシーの実存に迫った施設だとしたら、こちらはどっかのおっさんが悪ふざけで作ったとしか思えないテーマパークだ。
たくさんの観光客で溢れかえっていた他のスポットとは違い、ここには人っ子ひとりいない。エントランスから入ると、誰もいない売店が出迎えてくれる。奥にはカーテンで目隠しされたガラス戸がある。
この奥がネッシーランドに違いない。
だが、どこで入場料を支払い、どうやって入場するのかは謎に包まれている。
わたしはしばらく売店の中をうろついてみた。客はもちろんのこと、店員さえいないのだ。ネッシーのぬいぐるみやTシャツ、カレンダーなど、なぜかまったくネス湖エキシビジョンセンターと同じような土産物を眺めながら、人の姿を探す。売店は意外に広い。
やがて、どこかで水を流すような音が聞こえ、奥からトイレをすませたおっさんが姿を現した。
私はその人物に近寄ると、聞きたかった謎について口にした。
「あの……すいません。ネッシーランドというのは……」
するとその初老の男性は目を輝かせ、溌剌とした表情で私の言葉をさえぎった。
「興味があるのかい!?」
「あ、いえ、どのような施設なのかと思い……」
「たったの六ポンドでネッシーに関する科学的な示唆に溢れ、歴史的に価値のある展示を見ることができる。さらに、奥では映画が上映されている。世界でたったひとつ、ここでしか見ることの出来ないオリジナルのフィルムだ。これは本当に価値がある映画だから、ぜひ見て行って欲しい。たったの六ポンドだ」
熱弁をふるうおっさんに圧倒され、気がつくと私は六ポンドを支払っていた。まぁいいだろう。何と言っても世界でたったひとつ、ここでしか見ることの出来ないオリジナルのフィルムだというのだから。
おっさんに促され、ガラスの扉を開く。
「中は通路になっている。右側の道を壁伝いに歩いてグルリと部屋を周回するんだ。最後の部屋が映画館になっている」
言われるがままにネッシーランドへ足を踏み入れる。
目の虚ろなネッシーたちが私を出迎える。
館内はウォークスルー形式の展示場になっており、手作り感のある装飾の通路を、壁面に掲出されたパネルを読みながら歩く。照明は薄暗く、ちょっと変なにおいがする。順路は有るのか無いのか、良く分からない。
そして、私以外には客がいないため異様に静かだ。
薄暗い館内を歩いていると、子供の頃に訪れた岡山の遊園地のお化け屋敷を思い出した。上から何かが降ってきたり、壁から噴出してくるような“雰囲気”があるのだが、実際には何も起こらない。
身構えて歩いていると肩が凝る。雰囲気はさながらお化け屋敷だが、実際は博物館なので、リラックスして見学すると良い。
そして施設の奥には確かに映画館があった。
観客はもちろん私だけだ。
誰も居ない施設の奥で、ひとりで映画鑑賞をするという、想像以上に薄気味悪い体験だった。
さて肝心の中身だが、おっさんが世界でここだけ、と強調していた映画は、ネッシーを見たと主張する地元の人たちのインタビューをつなげて作ったものだった。
明らかにホームビデオで撮られており、時々、画面の端に消し忘れの日付が入ったりする。
インタビュー映像ばかりで画的にバリエーションが無いせいか、頻繁にネス湖の湖面がアップでインサートされる。ゆらゆら揺れる水面を見すぎると、途中で気持ち悪くなるので気をつけよう。
私は五分で切り上げた。
映画館を出て、出口へと向かう。とびきり狭い通路を歩いていた私の背後から、
「プシュッ」
と音がして、何かが吹き付けてきた。
思わず声を上げて飛び上がる。
モーションセンサー付きの芳香剤が、変なにおいを噴出したのだった。
意図せずして、この施設の中でもっともエキサイティングな瞬間だった。
ロンドンの幽霊宿と、温かくたっぷりな朝食
GPSはこの場所が今夜の宿だと示している。
だがそこには古ぼけたパブが一軒あるきりで、ホテルらしき建物は見あたらない。
英国のミステリースポットを訪れるため、フランスからユーロスターでロンドンに入った初日の出来事だ。
宿はロンドンから少し離れた住宅街の安いホテルを予約していた。
時刻は十五時過ぎ。
探していたホテルは見当たらず、悪いことに一時間ほど前から猛烈な便意を催している。住宅街なので、トイレを借りられそうな商店などもない。
仕方なく、古ぼけたパブの扉を叩いてみることにする。中にはどんな人が待ち受けているのだろうか。
これはH.P.ラグクラフトの怪奇小説などではない。2014年の夏、私が体験した鮮烈かつ強烈な事実の物語である。
「もしかしてだけど……ホテルを探してるのかな?」
まだ陽の高い午後だと言うのに、パブの中には三人の男女の姿があった。カウンターの中に若い女性のバーテンダー、カウンターには老人と若い男性が座り、ヒソヒソと言葉を交わしている。
私が入っていくと会話が止んだ。六つの青い目が、場違いなアジア人旅行者の姿に向けられる。
手前に座っていた若い男が、肩をすくめた。
「もしかしてだけど、ホテルを探してきたお客さんかな?」
私が頷くと、三人はやれやれ、という表情を見せた。灯りにひきつけられ、たまに迷い込んでくる愚かな羽虫でも見るように。
「宿は二階だよ」
老人が天井を指差す。一階がパブで、二階がホテルという形式だったのだ。礼を言ってパブの奥の階段に向かいかけた私を、バーテンダーが呼び止める。
「待って、改装中だからそちらからは上がれないわ。パトリックに言って、裏口から上げてもらわないと……」
パトリック?誰だそれは、と思ったが、それ以上に気になるのはその名前が口にされた瞬間、三人が同時に顔をしかめたことだ。まるで忌わしい何か、呪われた名前でも口にするように。
私は自分がどうすればいいか分からず、その場に立ち尽くした。英語で何と言えばいいのか、考え始める。
その時。
「おい、パトリック!パトリック!」
若い男が、パブの開け放たれた扉の外に向かって声をかける。私が振り向くと、通りを歩く若い男の姿が目に入った。よれよれの灰色のトレーナーを着た、太り気味の白人の青年。
パトリックはおどおどした表情でこちらを見た。説明してもらわなくとも、彼がコミュ障だってことはよく分かる。そして彼がこの町の“のび太くん”なのだということも。パブにいる面々が、面倒くさそうに、だが仕方ないという諦めの雰囲気で彼と接していたからだ。
「ほら、お客さんだよ、パトリック」
とびきり虚ろな青い瞳が私を出迎えた。
「ハイ、僕はパトリック。何かあれば電話して、この宿はとても快適だ……」
パトリックはパブの裏手にある扉を開けて、私を中へと案内する。
宿の中は何と言うか、改装中だとしか思えない有様だった。
古ぼけた建物はあちこちの壁紙が剥がれ、柱の塗装が剥がれて床に散らばっている。カーペットは煙草の焦げ跡だらけだ。足を踏み入れた瞬間、暗鬱とした気分に襲われる。
私を角の部屋に案内したパトリックは、こちらの目を一切見ないまま、ボソボソと設備の説明を始めた。
「ハイ、僕はパトリック。あなたの部屋はこちら。バスルームは共同なので後で説明する。wifiのパスワードはあそこに書いている。朝食は……」
パトリックは窓際に立つと、通りの向かいの店を指差した。
「あなたはあそこで快適な朝食をとることができる。とても便利だ」
電灯の切れかけた看板を掲げた、古ぼけた食堂が目に入った。
説明が続く間、私にはひとつ気になることがあった。
「パトリック、どうもベッドメイクがされていないようだけど……」
恐る恐るそう指摘すると、パトリックはシーツのかかっていないベッドに目をやり、しばらく考えた後でこう口にした。
「そうだ。ベッドメイキングが遅れてる。あと……三時間くらいで終わる」
「そう……だったらいいけど。夜には間に合うから」
時刻は十五時過ぎ。要するにシーツの発注を忘れていたのだろうと考えながらも、私は愛想笑いをした。何故か彼と言い争う気にはなれなかった。
だがパトリックは私の笑みを無視し、少し怒ったような口調で付け加えた。
「何かあれば、ここに電話して欲しい。僕が対応する」
電話番号を手書きしたメモを僕に押しつけると、パトリックは立ち去った。一切こちらの目は見なかった。
結果的に、その番号に電話をかけることは無かった。部屋の鍵は閉まらなかったし、Wifiは繋がらなかったけど。なぜなら字が汚すぎて電話番号が判読できなかったからだ。
シャワールームの悲劇と、腹を割くような絶叫。
どうやらそのホテルに、客は私しかいないようだった。部屋で荷解きをした私は、まずトイレの場所を探すことにした。
バスルームと書かれた扉を開けると、だだっ広い部屋の片隅に簡易式のシャワーブースが据え付けられているだけだった。脱衣所も洗面器も無いし、床には排水溝もない。その奥には扉があり、開けてみると便器があった。
もともとはランドリールームだった場所に、無理やりシャワーブースを設置したように思える。脱いだ衣服やタオルを掛ける場所も無い。
トイレを済ませた後、私はシャワーを浴びた。タオルや着替えをビニール袋に詰めてドアノブに引っ掛け、日本から持参したビーチサンダルを履く。デスバレーの砂漠のキャンプ場でもここよりはマシだったと思いながら髪を洗った。
感動的なことに、石鹸、シャンプー、リンスは部屋にあった。いつからそこに置いてあるのかは知らないが。
シャワーから出た私は、角の向こうから誰かがこちらへ歩いてくる足音を聞いた。
このホテルには僕とパトリックしかいない。だから多分、あれはパトリックの足音だろう。そう思って自分の部屋へと向かう。
足音が近づいてくる。
真っ直ぐ進めば、足音の主と角のところで鉢合わせする感じだ。僕は相手にこちらの存在を知らせるように、わざと足音を立てて歩いた。
やがて、角に到達した。
「うわあぁぁぁぁっっっ!!!!」
絶叫。
パトリックが絶叫している。
さっきまでボソボソと喋っていた若者とは思えない、家系ラーメンの店員かと思わせる大音声だ。
それは、絶対に会ってはいけない何かと出くわしてしまった者の恐怖のように思えた。
やがてこちらと目が合うと、パトリックは相手が何者か認識したようで、ボソボソと詫びながら立ち去って行った。
おい、 パトリック。
このホテル、絶対何か出るだろ。。。
温かくたっぷりな朝食。
夜中、ドンドンとドアを叩く音に目が覚め、何やらギリギリと窓枠をこじ開けようとする音に気づいて外の様子を窺おうとして、窓の外に魚のような顔をした人物の顔を見つけてぎゃああああーーー!
みたいな展開にはならず、無事に夜が明けた。時刻は七時過ぎ。
腹を空かせた私は、パトリックに教えられた食堂で朝食をとることにした。テーブルが四つほどの小さな食堂。薄汚れたコックコートを着た店主が一人で切り盛りしている。
向かいの宿に泊まっているのだけど……と告げると、ニコリともせずに「何でも注文しな」とこちらに告げる。料理名が良く分からなかったので、朝食セットみたいなものを注文する。
山盛りの芋と豆が出てきた。
1500キロカロリーはあると思う。
インパクトが強かったので、写真は二枚撮った。
この日から一週間ほど英国に滞在したのだが、朝食は常にこんな感じだった。たっぷりの芋と豆とソーセージと卵。そして、温かい。朝食はいつでも温かかった。味はともかくとして。
茶色く塩辛いそれを半分ほど平らげると、私はホテルを後にした。
教訓。
今回の宿はExpediaで予約した(一泊50ポンドくらい)が、よくよく考えるとレビューが一件も無かった。レビューは定性的な評価を得るための貴重な情報源だ。もしも選択肢があるなら、レビューの無い宿は避けた方がいい。
旅から帰ってきてこの記事を書くにあたり、再びこの宿の情報を確認したが、やはりレビューは一件も無かった。ツッコミどころが多過ぎて、みなレビューを書くのを断念してしまうのだろうか。
それとも、この宿に泊まった人たちは皆、魚のような顔をして口をパクパクさせるだけの存在に成り果ててしまったのかも知れない。
あ。。。ノックの音が聞こえた。誰か来たようだ。
ストーンヘンジとエイブベリーの幽霊パブ その2 ~イギリス旅行~
ロンドンから電車とバスを乗り継いで辿り着いたストーンヘンジは柵で仕切られ、近くに寄ることが許されないミステリースポットスポットだった。
ストーンヘンジとエイブベリーの幽霊パブ その1 ~イギリス旅行~ - 風とビスコッティ
立憲君主制度の先駆けとなった英国が、このような閉ざされたミステリースポット運営をしているとは信じがたい。私は落胆し、次の巨石群へと足を運ぶことに決めた。
エイブベリー巨石群である。
会いに行ける巨石群
ストーンヘンジのある町、ソウルズベリーから北に50キロほど離れた場所にエイヴベリーという村がある。
田舎なので、交通アクセスははっきり行って不便だ。今回はソウルズベリーの駅前でレンタカーを借りて訪問した。車で一時間ほどの道のりだが、道中に商店などは何もないので気をつけよう。
※ロンドンから直接訪問する際は、電車でエイブベリーの北に位置するスウィンドンまで行くと、エイヴベリーへのバスがあるらしい。
この小さな村は、村自体が巨大なストーン・サークルに囲まれている。ストーンヘンジとはまた違った意味でスペクタクルを感じさせてくれる場所だ。
日本ではストーンヘンジばかりが有名だが、このエイブベリーの巨石群もまた太古の巨石文化が生み出した謎の遺跡であり、世界遺産に認定されている。
ストーンヘンジ、エーヴベリーと関連する遺跡群 - Wikipedia
最大の特徴は、ストーンヘンジが地盤の劣化などの理由で近づけないように管理されているのに比べて、エイブベリーの巨石群は自由に近づけるという点にある。
村を散策すると、あちこちに高さ数メートルの巨石が点在している。
村の中心地にはビジターセンターがあり、古代の暮らしを紹介する博物館、カフェ、売店など一通りの施設はそろっている。日本ではまったく知名度がなく、辿り着くのも不便な場所なので人などいないだろうとタカをくくっていたが、平日にも関わらずたくさんの観光客の姿があった。
まぁ、日本人には無名かも知れないが、地元の人は訪れるのだろう。ストーンヘンジが富士山なら、エイヴベリーは忍野八海くらいの位置づけと見た。
会いに行ける幽霊パブ
ここエイヴベリーのもう一つの目玉が「幽霊パブ」だ。
村の中心部にあるパブ「レッドライオン(The Red Lion)」は、「全英でもっとも幽霊に取り付かれたパブ( one of the most haunted pubs in England)」として有名らしい。
The Red Lion Pub, Avebury, England
このパブには複数の幽霊が住み着いていると言われているが、その中でも印象的なのは井戸に投げ込まれた女性の幽霊だ。
17世紀頃、夫の出征中に浮気をしていた女性が、突然、家に帰って来た夫の手で殺され、井戸の中に投げ込まれたというもの。井戸と女の幽霊というのは日本でも定番の怪談の材料だが、このパブが凄いのは、その井戸が現存しているということだ。
しかも、井戸をテーブルに作り変えて、客席にしてしまっている。
しかも、中が良く見えるようにライトアップしてる。
もしも立ち寄ることがあれば、ぜひこの井戸テーブルの中を覗き込んで欲しい。覗き込んだ結果、井戸のそこに何が見えたか。それは見に行った人だけが分かる。
おまけ
英国のパブのトイレはサイズ別になっている。
金を受け取らないコンビニと渋谷道玄坂上の朝
294円。
確かにレシートにはそう書いてある。だけどレジのおじちゃんは
「280円でいいからね!」
ちょっと怒った風にそう言う。
アメ横で板チョコを買っているのではない。れっきとした都心のコンビニでの出来事である。
お店に迷惑がかかるかも知れないから、詳細についてはボヤかすことにする。
渋谷のどっかにあるそのコンビニに朝立ち寄ると、おそらくオーナーであろう白髪のおじさんが斬新な接客をしてくれる。
「袋、いいです」「黙れ!俺は袋に入れる!」
コンビニでブラックサンダーやスニッカーズを一個だけ購入すると、不毛なマニュアルトークが発生すると思う。
すなわち
「袋、入れますか?(いらないよね?)」
みたいなコミュニケーション。
持ち重りのする品物でなければわざわざビニール袋に入れる必要は無い。
だけど無言で商品を裸のまま渡すのも失礼な感じだから、念のため聞くのだ。ミスタードーナツでドーナツを20個買った時にも同じ現象が起きる。
「お持ち帰りですか?(そらそうだろうけど)」
みたいな確認。
だけど、このコンビニは違った。おじさんは袋の有無を聞きはしない。僕が買った一枚のマカダミアナッツ入りチョコチップクッキーをちっちゃい袋に入れようとする。袋の口が滑ってうまく開かず、おじさんは袋を一生懸命カシャカシャとこすっている。
僕は袋なんか要らない。クッキーはバッグに放り込んでいけばいいのだから。
僕「あ……袋、いいですよ」
おじさん「そんなわけにはいかんやろ!」
一歩も引かず、おじさんは袋をカシャカシャこすり続ける。レジには会計待ちの列ができている。
「280円でいいからね!」
会計は294円だった。レジの液晶画面にそう表示されている。一杯のコーヒーとクッキーが一枚。僕は500円玉一枚と、一円玉4枚を財布から取り出そうとした。するとおじさんは
「280円でいいからね!」
と少し怒ったような口調で言い放った。
子供のころ、駄菓子屋でお菓子を買うとたまにオマケをしてくれたものだ。だが、その頃を思い出して心温まったりはしない。このままではレジの出納が合わなくなってしまうからだ。本部の人からこっぴどく怒られるのではないか?それとも実はこのおじさんがコンビニチェーンの総帥だったりするのか??
だが言い争っても仕方がない。僕は黙って500円玉を渡す 。
お釣りとして240円が返ってきた。
もはや突っ込む気力も無かったので、そのまま受け取っておいた。
立ち去ろうとする僕に向かって、おじさんはニッコリと微笑んだ。
「いつも来てくれて、ありがとね!また来てね!」
初めて立ち寄ったコンビニだった。
年末調整と損保ジャパン日本興亜ひまわり生命保険株式会社と、愛のままにわがままに
年末調整の季節。合併を繰り返した保険会社の名前が長すぎるとニュースになっていた。
Yahoo!ニュース - 長い社名、年末調整騒動で公式回答 (web R25)
一例に挙げられていたのは「損保ジャパン日本興亜ひまわり生命保険株式会社」などだ。確かに長い。年末調整の書類の、あのちっさい欄に書き込むことを想像すると、米粒に般若心経を書く方がまだ容易に思える。
だがお互いの社名を尊重した結果の苦渋の選択というのも理解できる。名称を略すことは難しいだろう。例えば音楽界で「Bon Jovi」と「MR.BIG」が合併したとして、バンド名を「Mr.Bon Jovi」に改名するだろうか?いやそれはない。
※ガンズアンドローゼス、シャ乱Qといった例外には言及しない。私は忙しいのだ。
だがユーザーに親しみを持って覚えてもらえる商品名、サービス名にするためには、適切な文字量に収める必要があるだろう。
大切なのは文字量だけだろうか?
記憶のしやすさに影響を与えるのは、文字量だけでなく、言葉の意味や語感も重要だ。理解できない言葉は例え三文字でも覚えられない(※私はジェームズ・キャメロンが監督した深海SF映画のタイトルが覚えられない。どうしても“アヌス”という言葉が浮かんできてしまう)
例えば
“リガトーニ・アッラマトリチャーナ”
と言われると何のことか分からない上、絶対に暗記できない。だが、
“ベーコン・玉ねぎのトマトソースとマカロニ、サラダも付いて850円”
と言われると、にっこり笑って注文し、食後のエスプレッソもよろしくね、という気分になろうと言うものだ。
話は変わるが、同じ理由でワインに知識の無い私は、葡萄の品種や蔵元の名前が羅列してあるワインリストを見せられるといつも困惑する。
ワインに詳しい知人にその話をすると
「知識がないことを恥ずかしがる必要は無い。軽めの白がいいとか、重たく渋い赤がいい、とか、客は自分の好みを伝えればいいんだよ。店の人たちはプライドを持ってワインをそろえている。好みを伝えれば、それに合ったワインがどれなのか、必ず教えてくれるよ」
と言われた。
だったら最初からワインリストに「重めの赤」とか「軽めの白」とか書いとけと思うのだが…。
長短に関わらず覚えられる不思議
ちなみにやたらと長い曲名だが「愛のままにわがままに僕は君だけを傷つけない」や「いとしさとせつなさと心強さと」は覚えていられる。文字量としてはなかなかのボリュームがあるにも関わらず、だ。
これに関しては、単純に曲のフレーズと一緒に覚えているのだと思う。
物事を暗記するための歌というやつはたくさんある。例えば巨乳の女性にカップ数を聞いた直後、八十五パーセントの男性が口ずさむと言う、ABCの歌もそれだ。26文字の順列を暗記するのは大変だが、音楽に合わせてならそれが可能なのである。
歌ではないが、サラ・ジェシカ・パーカーやキャサリーン・ゼタ=ジョーンズなどの長い人名も、語呂が良いので覚えていられる。「長い顔の人」とか「マイケル・ダグラスの嫁」と呼ぶことはない。日本人にも発音しやすくて、口にした時に気持ちがいいフレーズだからだろう。
※我々は“タランティーノ”は発音できるが“クェンティン”は苦手だ。
そうやって考えてみると、コマーシャルソングの力はやはり偉大で、富ぅ士ぃ!サァファリパーークッッ!や伊東に行くならハートーヤッ!などの施設名は、一度も行ったことがないにも関わらず、まるで初恋の相手の名前のように覚えているものだったりする。
そうやって考えると、合併を繰り返して長くなってしまった保険会社、銀行などが次に打つべき手は、適当な略称を考えることではない。小林亜星やキダ・タローにお願いして日本国民の心に響くコマソンを作ることだ。Bzあたりにシャウトしてもらえばきっとアビスよりも深く浸透するだろう(適当)。
abyss(英)【名詞】深いふち,底の知れない深い穴.
ストーンヘンジとエイブベリーの幽霊パブ その1 ~イギリス旅行~
イギリスの三大ミステリーと言えば、謎の巨石群ストーンヘンジ、ネス湖の怪物ネッシー、ポール•マッカートニーの死亡説なわけだが、この夏、ストーンヘンジにお邪魔してきた。
ロンドンからソウルズベリーへ
ソウルズベリーはストーンヘンジにアクセスするための拠点だ。それほど大きくはないが、南側には歴史ある大聖堂があり、趣を感じさせる町である。
町の中心にある広場で美味いステーキを食べ、川沿いにあるパブでエールを飲んだ。
酔っ払わないうちにストーンヘンジに行ったほうがいい。誘惑が多いから気をつけよう。
ストーンヘンジはソウルズベリーから10キロほど北に位置している。歩くのが好きな人は三時間くらい歩けばたどり着けなくもないが、町の中からツアーバスが出ているので普通はそちらを利用する。
http://www.thestonehengetour.info/route
一時間に一本。ストーンヘンジまでは30分くらい。季節によって時刻表が違う。
The Route of The Stonehenge Tour | The Stonehenge Tour
料金は運転手さんに直接払う。このツアーバスはストーンヘンジの入場料が含まれており、乗っていけばそのまま観光ができる。個人で直接行く場合には別途WEBサイトから予約が必要という噂もある。ご注意を。
料金は幾らだったか忘れたが、僕の前に乗ろうとしていた中国人の大学生たちが、値段を聞いて溜息をつきながら払っていた。まぁ、それぐらいの価格だ。
ちなみにバスはソウルズベリーの駅前が始発。
街中の幾つかのバス停からも乗ることができる(ストーンヘンジツアーの目印がある)が、分かりづらければ駅から乗るといいだろう。
お触り禁止の巨石群
二階建てのバスに乗ったら、田舎道を北へと向かう。バスは思いの他スピードを出す上、道が狭いので道路わきの木々の枝がバンバンぶち当たってくる。調子に乗って二階席最前列に座ると、お願いしていないのにスターツアーズのようなスペクタクルを味わうことができる。まぁ、びっくりして「うわっっ!」と大声を出すはめになると思うが。
後ろの席で中国人の大学生たちがクスクスと笑っていた。
30分ほど走ると、ストーンヘンジのビジターセンターが見えてくる。
安藤忠雄っぽい建築物なので、たぶん安藤忠雄が設計したのだと思う。というか、世界の建築物の半分はTADAO ANDOで出来ている。
ツアーバスに乗って訪れた場合、降りた後で運転手さんが団体受付からチケットを取ってきてくれるので、それを持ってからビジターセンターに向かう。売店やトイレ、音声ガイドの貸し出しブースがあり、いよいよストーンヘンジの見学が始まるのだという気分が高まる。
だが、それは罠だ。そこはストーンヘンジじゃない。
ストーンヘンジはそこから小さなシャトルバスに乗り換え、さらに五分ほど走った先にある。シャトルバスには大行列だ。ストーンヘンジに着いたと安心して売店を覗いてたりすると乗り遅れる。注意しよう。
シャトルバスを降りると、ストーンヘンジは目の前だ。
目の前だが、柵に囲まれているせいで近づけない。100メートルほどの距離を置いて周囲をグルグル回ることになる。
音声ガイドによる解説もそこそこボリュームがあるので、駆け足で見学しても30分はかかるだろう。気をつけたいのが帰りの時間だ。シャトルバスが混むこともあるので、あまり遅くならないよう、訪問する時間には気を配った方が良い。
巨石群を見た感想だが、あまりに遠すぎてちょっと残念な感じだった。
期間と人数を限定して、柵の中に入れるツアーもあるらしいのだが・・・・・・。
この無念は、翌日のエヴベリーで果たすことになる。会いにいける巨石群、幽霊パブについては、また後日アップする。
おまけ。
売店で売っていたストーンヘンジ“Rock”Tシャツ。
“Rock”じゃなくて“Stone”だろ?と突っ込みを入れつつ、そもそも“Rock”と“Stone”の違いを知らない自分に気づいた。
まぁあれだ、“Rock”はピープルズ・チャンピオンで“Stone”はガラガラ蛇だってことだろう。
photo credit: david_shankbone via photopin cc
アシモとタイのおじいちゃん
友人から聞いた話なので真偽のほどは定かではない。
以前、HONDAが自社開発したロボット「ASIMO」のお披露目イベントを世界各地で行っていた時のことだそうだ。
photo credit: Ars Electronica via photopin cc
タイのとある会場を借り切って、タイの皆様に日本が誇る最新鋭ロボットをお披露目するイベントが開かれることになった。
現地で一番大きなホールが貸し切られ、本番に向けて粛々と準備が進んでいく。
中でも一番の目玉はASIMOの登場シーンだ。
予定では、暗転したステージ上にスポットライトが当たった瞬間、ASIMOがあの特徴的な足取りでゆっくりと出てくるという段取り。
MC、照明、音響、それぞれがタイミングをピッタリ合わせないと台無しになる。
そこで舞台監督はタイミングをはかる練習のため、現地のスタッフの中から、ASIMOと背格好が似通ったタイ人のおじいちゃんを選んだ。おじいちゃんは何度もステージ上を行き来しながらASIMOの代役を務め、みんなの練習相手を務めた。
スタッフの多くは現地のタイ人であり、言葉が通じない壁はあったが、みんなが一丸となって舞台を作り上げていった。
そして、イベント当日。
居並ぶ観衆。タイのマスコミや市民たちが、日本の技術力の粋を集めたASIMOをひと目見ようと詰め掛けてくる。
これだけの大観衆を前にして、ヘマは許されない。
そして、いよいよ暗転、スポットライトが舞台を照らす!
そこに颯爽と現れたのは、あのタイ人のおじいちゃんだった!
おじいちゃんを始め、日本語がわからない現地のスタッフたちは、あの練習の意味がわからず、本番もおじいちゃんが登場するものだと思い込んでいたそうだ。
一世一代の大舞台を潰された舞台監督が 激昂して「このあHONDAらがっ!」と叫んだかどうかは、定かではない。
どっとわらい。